著者(管理人)からのメッセージ
  この実験マニュアルは、著者が15年間バイオテクノロジー実験を指導した結果のエッセンスです。初めて実験を体験する人たちに、まず実験室で「存在」するための心構えや注意からはじまり、タンパク質の部分精製までを一年間で教えていた内容です。指導対象者は高校卒業直後から大学院卒業生まで、そして社会人を含みます。
 通常、一年間で入門からタンパク質の精製までという過程は、事情をわかっている人にとってかなり無謀なレベルアップだと思われるでしょう。そのため教える側にかなりの工夫が要求されますし、無駄も省かなければなりません。常に「事業仕分け」の連続ですね。 下に続く〜

回 

 テーマ

  1 T-1  生化学実験系の実験室での心得
   (その1)     

1:基本マナー
2:実験態度
3:実験室内での服装等
   (その2)     

4:実験を行うにあたり
 4−1:実験ノートを作成する
 4−2:実験ノートの記載方法
  @前準備
  A実験中
  B実験終了後
【参考】企業における実験ノートの意義
【参照】実験室とパソコン(PC)について
   (その3)     

5:実験の進め方
 5−1:実験前
 5−2:実験操作中
 5−3:実験操作終了後
6:実験時間終了後
  2

T-2  ガラス器具の種類と使い方
   (その1)     

1:実験で用いる主要ガラス器具
 1−1:反応容器
 1−2:測容器
 1−3:保存容器
ガラス器具使用上の一般的な注意
   (その2)     

2:ガラス器具の洗浄
 2−1:反応容器(ビーカー、三角フラスコ、シャーレなど)一般
 2−2:計量器のうち、特に厳密な管理を要求する器具(メスフラスコ類など)
 2−3:ピペット類(パスツールピペット以外)
 2−4:特殊器具の洗浄
   (その3)     

3:ピペットの使い方
 3−1:メスピペット
 3−2:ホールピペット
 3−3:パスツールピペット・駒込ピペット

  3

T-3  計量器の操作法練習
   (その1)     

1:目的
2:主な使用器具・機器
3:重量測定
 3−1:天秤について
4:容量測定
 4−1:メスフラスコの取り扱いに慣れよう
   (その2)     

 4−2:メスフラスコの検定補正
【参考】g/cmの意味を知る上で丸暗記すること
   (その3)     

 4−3:メスピペットとホールピペットの使用方法に慣れよう
 4−4:メスピペットの目盛りの検定
5:ホールピペットの使用法練習
【参考】添付した「ホールピペットSTDEV自動計算」の使い方

  4

T-4  単位と量(演習)
   (その1) 
   

1:SI基本単位
    <日常生活とSI基本単位>
    <モルってわかんない>
    <SI単位の記号は大文字と小文字で意味が違う>
2:SI誘導単位

    <SI誘導単位って、SI基本単位を掛けたり割ったりして表せます>
    <力って、質量と長さと時間のかけ算なの?>
   (その2)     

3:SI接頭語
    <1mは何cmなの?>
    <日本は四桁、世界は三桁>
    <SI単位の記号は大文字と小文字で意味が違う(その2)>
    <大きい値を省略する接頭語と小さい値を省略する接頭語>
    <大きい値を省略する接頭語>
    <小さい値を省略する接頭語>
    <パーセントとパーミル>
    <パーミルもあるんだよ>
    <パーセントとパー>
    <数字は3桁ごとに「カンマ」で区切るとものすごく理解しやすい>
4:SI単位と並行して用いられる単位
    <SI単位だけじゃやっぱり不便だよ!>
5:SI接頭語の変換
    <1kmは何m? 変換のポイント>
    <大きな接頭語への変換では数値が小さくなるよ!>
    <3桁ごとだけじゃない!日常生活と密着するほど細かく名前が付いちゃう>
    <小さな接頭語への変換では数値が大きくなるよ!>
    <日常生活でも変換は必要だから、よく出てくる接頭語とその順番を覚えること>
    <慣れるまでは変換表を使っちゃおう、印刷だ!>
    <練習問題>
    (その3)    
6:数に関する接頭語
    <1から10まで好きな曲の歌詞みたいに覚えちゃおう!あとでいいことあるよ >
    <1のモノはモノレール、6のヘキサはヘキサゴン(6角形) >
    <余裕がある人は11以上言い方の規則性を理解しちゃおう >
    <DHAとEPA >
   (付)         
付:モル(グラム分子)、モル濃度
 @モル(mole,mol):
    <さあモルデビューです>
    <モルを理解するには日常生活とはかけ離れた感覚が必要だ>
    <モルは分子を扱う>
    <モルは10の23乗個という非日常的な量を扱う>
    <モルが出てきたらすぐに対象分子の分子量を調べる>
    <分子量を知るには>
    <分子量の計算方法>
    <計算の桁数をどうしよう?計算の正確さをどのように考えるのか>
    <物質の分子量に等しいグラム数の物質の量を1モルという>
    <ある物質の分子量が違えば、1モルつまり6×1023個の重さも違う>
    <モルという単位は、単に物質がいくつあるかだけの意味で、容積に関係ない>
 Aモル濃度(mol/l ):
    <モル濃度(mol/l)って何? モル(mol)と何が違うの?>
    <モルとモル濃度の実例>
    <mol/lを、以前はM(ラージエム)と表していました>

  5

T-5  溶液の調製1
   (その1)      

溶液の調製1
    <バイオ実験と化学実験の違い>
    <溶液、溶質、溶媒そして濃度>
 濃度
    <化学系の実験で使う濃度にはいくつかの種類がある>
  パーセント濃度
    <w/wとw/v>
    <重量容量パーセント濃度>
  モル濃度
    <バイオ実験の溶液で使われるモル濃度は容量モル濃度>
    <モル濃度の実例その2>
    <1リットルの1モル水溶液は、1モルの溶質に水を加えて総量1リットルにする>
    <溶液と懸濁液は通常別の扱いをします>

   (その2)      
  目的
  器具
  試薬
 操作1
    <調製する溶液を知ろう1.溶質の種類は?>
    <調製する溶液を知ろう2.濃度は?>
    <調製と調整>
  1):まず、溶液調製の前準備として各自準備したノートにマニュアルを作成する
    <実験日の前日までに実験ノートに操作法を記入し、頭の中で実験をしておく>
    <純度100%って?市販試薬の純度と値段>
   (その3)      
    溶質量の計算
   ア):実験ノートにa〜f溶液調製に必要な溶質量の計算を行う
       <溶液調製に必要な溶質量の計算>
        a:3%(w/w) NaCl溶液を100g調製しなさい
        b:3%(w/v) NaCl溶液を100ml調製しなさい
        c:0.5mol/l NaCl溶液を100ml調製しなさい
        d:5%(w/w) D-Glucose 溶液を100g調製しなさい
        e:5%(w/v) D-Glucose 溶液を100ml調製しなさい
        f:0.5mol/l D-Glucose 溶液を100ml調製しなさい
    <計算は、最初に1mol/l溶液を算出し、次に濃度や調製量を合わせる>

   (その4−1)   
    操作手順作成1
   イ):実験ノートにa〜f溶液を調製するための操作手順
    <使う器具を考えよう、何を使うのか知るためには操作手順を考えればよい>
    <操作手順を考える前提>
    <溶液調製の前に、調製時の多い間違い>
    <試薬を扱う前には、使う試薬を知る>
    <NaClやD-Glucose、試薬と食品は違います>
    a:3%(w/w) NaCl溶液を100g調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図>
    <作ったフローチャートを見て実際の手順を頭の中で行い、使う器具を考える>
    <器具に付着した試薬を洗い込む操作>
    <実際の手順を頭の中で行い、使う器具を考える続き>
    <洗い込まねばならない場合と、洗い込んではだめな場合がある>
    <水溶液の「濃度」について確認しよう>
    <洗い込まねばならない場合と、洗い込んではだめな場合があるの続き>
    <保存容器に移すには?>
    <さあ、実験ノートの記述を完成させよう>

   (その4−2)    
    操作手順作成2
    b:3%(w/v) NaCl溶液を100ml調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図をつくり、頭の中で実験して使う器具を考える>
    c:0.5mol/l NaCl溶液を100ml調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図をつくり、頭の中で実験して使う器具を考える>
    <メスシリンダーとメスフラスコ 溶液の調製と精度>
    d:5%(w/w) D-Glucose 溶液を100g調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図をつくり、頭の中で実験して使う器具を考える>
    e:5%(w/v) D-Glucose 溶液を100ml調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図をつくり、頭の中で実験して使う器具を考える>
    f:0.5mol/l D-Glucose 溶液を100ml調製するための操作手順
    <実験手順のフローチャート図をつくり、頭の中で実験して使う器具を考える>
   (その5)      
  2):担当教員の指示に従って提示し、点検を受ける
    <実験当日朝、自分で作った実験ノートの内容の確認>
  3):合格したら作成したマニュアルに従って班単位でそれぞれの試薬の調製を開始する
    <班員一人一人が必ず%(w/w)、%(w/v)、mol/lの3種類を作る>
    <実験中、わからないことがあったら!>
  4):調製した溶液はポリの保存瓶に保存する
    <調製した溶液の内容表示>
 <参考>
   (その6)      
 操作2
   操作1で調製した溶液を用いて次の各濃度の溶液を調製する
    A:1%(w/w) NaCl溶液を30g調製する
    B:1%(w/v) NaCl溶液を30ml調製する
    C:0.1mol/l NaCl溶液を25ml調製する
    D:1%(w/w) D-Glucose 溶液を5g調製する
    E:1%(w/v) D-Glucose 溶液を5ml調製する
    F:0.1mol/l D-Glucose 溶液を5ml調製する
  1):まず、<操作1>と同様に前準備のために実験ノートにマニュアルを作成する
   ア):A〜F溶液を調製するためには,操作1で調製したa〜fの溶液のうち、どれを使えばよいか      を考え、実施可能な方法を選択し、必ず自分の実験ノート上に計算の式をすべて記載し、計算結果を記録する
    <A〜F溶液調製に必要な操作1で調製した溶液は?>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:A>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:B>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:C>
    <溶液を希釈するときの計算間違い>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:D>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:E>
    <溶液調製に必要な溶液選択と計算:F>
    <溶液の濃度を変えるには、高濃度の原液を希釈して、低濃度の溶液を作る>

   (その7−1)      
   イ):実験ノートにA〜F溶液を調製するための操作手順(マニュアル)を詳細に記載し、操作に必  要な試薬と器具名を割り出して、まとめて記載する
    <実験手順フローチャート図:A液>
    <実験手順フローチャート図:B液>
    <電子天秤の上での操作は必要最低限にとどめましょう>
    <容器がメスシリンダーなど測容器の場合、撹拌棒は使用しません>
    <実験手順フローチャート図:C液>
   (その7−2)      
    <実験手順フローチャート図:D液>
    <実験手順フローチャート図:E液>
    <実験手順フローチャート図:F液>
  
2):担当教員の指示に従って提示し、点検を受け、必要に応じて訂正して再提出する
   3):合格したら作成したマニュアルに従って班単位でそれぞれの試薬の調製を開始する。各自が実験ノートに作成したA〜Fすべてのマニュアルに従い、班員全員がA〜Fの全種類を調製する。

  6 T-6  pHメーター
  7 T-7  溶液の調製2
  8 T-8  分光光度計
  9 T-9  %濃度とモル濃度
 10 T-10 濃度計算(演習)
 11 T-11 中和滴定
 12 T-12 緩衝液
 13 T-13 分光光度法による定量分析
 14 T-14 薄層クロマトグラフィー

〜上からの続き
このような状況では、私が大学で学んだ
 「やっているうちに解かるから<なぜこのような方法をとるのか>はいちいち教えない(=多くの場合、教えている本人が知らない?!)」
 「原理や理由は自分で見つけなさい、その方が身につくし、学んでいる間の=もがきや苦しみ=が研究に対する考え方を磨くんだから!」
という教育方法はとれません。
 「この操作は、なぜこのように行うのか」、動作を覚えることももちろん大切ですが、操作法の「なぜ」の理由 を教えてその場で理解してもらい、正確で確実な実験技能を身につけてもらうように心がけていました。なかには「なぜ」はどうでもよい。なにしろ「このように習慣づけなさい」もありますが、これも共同作業を行うことが前提のこの分野では重要です。
 たとえばホールピペットの持ち方と吸い方、出し方です。大学院を出た人でも、研究上の理論は述べても、きちんとピペットを使えない人がけっこういます。実験を始めた時にきちんと教える人がいなかったためでしょう。
 このホームページでは、マニュアルの解説部分にこの「なぜ」を多く入れて記述しています。これは実験室で指導している現場で、私が口頭で実習者に伝えていた内容です。
 したがって、このホームページの特徴は「解説部分」です 。マニュアル本文より解説部分が長くなっています。
 マニュアルは、どこにでもある内容とあまり違いないと思いますが、解説はあまり見たことがありません。これから、このホームページでは、実験操作などでの「なぜ???」をできるだけ説明していくことを予定しています。
 もう一つ、実験を指導している上で、学生がいつも戸惑っていることがあります。モル濃度と試薬の濃度計算 です。
 わかってしまえば簡単ですが、どうしてもはじめは難しいと感じてしまう学生が多いようです。
 考えてみたら、著者も高校の化学ではモル濃度を理解していませんでした。大学では知ってるものとして説明が続くので相変わらず理解していませんでした。
 しかし、大学院に入り、自分で実験計画を立てるようになったら、モル濃度を理解してなかったことを忘れるくらい当たり前に使っていました。
 必要になったら簡単に理解できていたのです。
 このホームページのモル濃度、濃度計算法の解説は完全とはゆきませんが、かなり工夫をしているつもりです。(H22.8.23)



Powered by NINJA TOOLS