T-1 生化学系の実験室での心得
(その1)

 〜実験を安全に行うために〜

 このページの使い方
※ マニュアル本文は学生に配布するマニュアル本文の内容です。
※ 解説は、私が実験指導中に口頭で伝えた内容を文章化しました。主に実験前の説明で解説することを前提にしています。マニュアルには記述してない、非常に重要な内容を含みます。解説がこのホームページの中心と考えています。これから実験を学ぶ学生に特に読んでいただきたいと希望しています
※ まとまったマニュアル本文は、「マニュアル本文」をクリックすると表示されます。

 実験室は常に整理整頓し、清潔にしておかなければならない。
 実験室は危険を伴う場所であることを認識し、気をひき締めて行動する。

マニュアル本文

解説

 1:基本マナー  
 授業であるから礼儀をわきまえる。
 実験室は多くの人が共通で使用するので、ルールを守ること。
 解説1:実験室のルールは、どの実験室にも共通なものと、その実験室の個々の事情でルールとなっているものがあります。以下は、学校のどの実験室にも共通な一般的な考え方を中心に記載してあります。 

 2:実験態度   
 実験中は関係のない私語はしない。   解説2:実験中は集中して操作しなければなりません。集中してないと操作ミスにつながったり、怪我など事故につながることが多くなります。 
 他人に予測できない急な行動は、危険が伴うために絶対に行わないこと。   解説3:学校の実験室では一人で実験を行うことはまずありません。
 たとえば、実験操作中誰かがうしろを右から左へ通ろうとしています。操作者は、その瞬間はうしろを人が通ることを認識しながら操作するでしょう。ここで、操作中の試料入り容器を別の場所に移動させる必要が生じた時、うしろを通る人が通り過ぎた後すぐに容器を移動させようとタイミングをはかり、通り過ぎたと判断したら容器を持って移動させます。このとき、後ろを通っている人が突然逆戻り(予測外の急な行動)すれば、持っている容器ごとぶつかってしまいます。ぶつかった二人に試薬がかかり、怪我したり、試料の損失になります。持っている試薬が硫酸溶液だったことを想像してみてください。 
 実験室内で走ってはならない。  解説4:当たり前なのですが、意外に守れません。無意識に走るのをよく見ます。本当に危険ですから意識して注意しましょう。 
 実験室内で大声や大きな音をたてない。   解説5:通常の話声はもちろん、たとえば器具を落とした瞬間、大きな声を出す者がいますが、その声に驚いて他の人が連鎖的に実験に失敗することがあります。 
 実験は常に危険を伴うものと考える。しかし、注意すれば避けられるものであり、こわごわと操作する方が危険である場合が多い。   解説6:必要以上に怖がると、体が萎縮してしまい、正常な操作ができにくくなります。行う操作の意味、危険性を予測し、理解した上で、怖がらずに操作することが必要です。 
 実験室内では飲食は厳禁である。   解説7:二つの理由があります。一つは、実験室が様々な物質を自然界では考えられない純度や濃度で使用する場所だということです。このような物質が食事とともに口に入る恐れがあることです。人体に取って危険な物質はもちろん、危険度は低くても、純度が高かったり濃度が高かったりすると好ましくない影響があります。
 もう一つは、食品という実験にとって異物を実験環境内に入れることになり、実験の汚染原因になりやすいことです。
 
 実験室に漫画等実験に関係ない書物やウォークマンなどを持ち込んで使用したり、雑談したりしないこと。   解説8:実験室は集中して実験作業を行う場所です。この集中をさまたげる物や行動は実験室の外で。 
 携帯電話などは集中力を阻害し、周りも危険であるから持ち込まない。   解説9:携帯電話は、実験室内では必ず電源を切りましょう。使用する必要がある場合は実験室外で使用します。理由は解説8と同じ、集中を妨げるからです。 

  3:実験室内での服装等  
  実験室では実験衣(白衣)を着用し、実験室履きで入室する。

 解説10:白衣を着る意味はなんでしょうか。かっこいいからではありません。いろいろな意味がありますが、ここでは二つの理由を挙げます。
 一つは自分自身を守るための防護服です。実験室は自然界では考えられない高純度、高濃度の物質を扱う場所です。危険物はもとより、危険度は低くても、人体に対して悪影響をおよぼす物質による危険から守るため(防御)です。
 もう一つは、室外からの様々な異物が着衣などに付着して実験系に進入することを防止する(防塵)ためです。

 解説11:実験室履きは実験施設により異なりますが、防塵のために重要な意味があります。さらに、クリーンルームやバイオハザードルームなど、特別の機能を持つ区域に入るとき履き替えなければならないなど、実験室や区域のルールに従う必要があります。 

  白衣を着用する際、まず身軽な服装に整えてから白衣を着用すること。厚手の上着などを着た上に白衣を着用すると、行動しにくくなり危険である。

 解説12:実験室内では効率的に作業をこなすだけでなく、危険から身を守るためにも常に身軽に動ける必要があります。厚着の上にさらに白衣では身軽に動けません。外出時の上着は必ず脱いでから白衣を着用しましょう。

 解説13:白衣の袖は伸ばすのがよいか,腕まくりをするのがよいか。実験の内容や目的により研究室単位で判断します。
 機能を考えると防御の点からは袖を伸ばすべきです。しかし、たとえば微生物を扱う実験など、腕まくりをするべき種類の実験があります。微生物を扱うときは、無菌操作が前提ですから、まずアルコールなどで腕のかなり上まで殺菌処理します。袖があると付着した菌や、パタパタする袖が起こす風でも汚染の可能性が高くなります。

  白衣および実験室履きを着用したままで指定区域外へ出てはならない。  解説14:白衣の機能から考えて、着たまま外出することが不適当であることはわかるでしょう。その研究室のルールに従ってください。
  着用した白衣のボタンはきちんとかけておくこと。  解説15:白衣を着るとき、ボタンを閉めずに「着てるつもり」の人がいます。TVドラマなどの影響なのか、ボタンを閉めないことが「かっこいい」と勘違いしているのでしょうが、我々から見ると、「不格好この上なし」に見えます。防御服や防塵服としての機能を考えれば理由はすぐわかりますね。ボタンは必ず閉めましょう。
  白衣のポケットに手をいれない。  解説16:実験室は、居るだけで常に危険にさらされています。もっとも重要な防御手段である手をポケットに入れていると、緊急防御、避難に一瞬の遅れを生じます。ポケットにすぐに手を入れる「くせ」をもつ人がかなりいます。この「くせ」は必ず治しましょう。「くせ」が治るまでポケットの入り口を糸で縫って、手を入れられなくしてしまう方法もあります(そのくらい重要なことです。実験施設の決まりに従ってください)。
  長い髪の毛は邪魔にならないように、実験が始まる前に必ず束ね、実験に不要なアクセサリーなどは身につけない。  解説17:微生物実験など、火を扱う時、長い髪の毛が炎にかかって焦がします。また、フケやゴミが実験系に入る確率が高くなります。アクセサリーなどは操作の邪魔です。、心構えの上からも、つけて実験をするような低レベルの実験技能では仕事で使い物(者)にならないでしょう。
  口紅はピペットに付着する。さらにマニキュアは使用する試薬類に溶けることがあるので実験時は絶対に使用しないこと。  解説18:化粧は、実質的に実験操作には有害なことの方が多いです。実験に対する影響を考えて必要最小限、好ましくは実験中は全くせず、実験が終わってからにしましょう。