T-2 ガラス器具の種類と使い方
(その2)

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※ マニュアル本文は学生に配布するマニュアル本文の内容です。
※ 解説は、私が実験指導中に口頭で伝えた内容を文章化しました。主に実験前の説明で解説することを前提にしています。マニュアルには記述してない、非常に重要な内容を含みます。解説がこのホームページの中心と考えています。これから実験を学ぶ学生に特に読んでいただきたいと希望しています
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 マニュアル本文

 解説

 2:ガラス器具の洗浄  
 ※原則:器具の種類、使用した用途、試薬により異なる。
 以下は、最も一般的な洗浄方法

 解説5:洗浄は使用終了直後に実施する。よく実験が全部終わってから洗浄すればいいとして、使用した器具類を流しに放置する者があるが、水溶液などを用いた後、放置して器具の表面が乾燥すると、洗浄しても落ちにくいことが多い。
 解説6:時間的制約で直後の洗浄ができない場合は次善の策として、流しにタライなどを準備し、器具を水道水に漬けて置き、付着した試薬や試料、さらに洗浄中の洗剤や水道水が乾燥して、不揮発性の成分(水道水中の塩素やカルシウムも含む)が乾燥により「こびりつかない」ように注意すること。

 2−1:反応容器(ビーカー、三角フラスコ、シャーレなど)一般  
 @廃液類は指定の方法で処理する
 廃液類は教員の指示に従って実験室の決まり通りの処理を行う。はじめは処理方法がわからない場合が多いはずだが、不十分な知識で処理を行うと危険を伴う場合があり、慣れるまではその都度教員に問い合わせる
 解説7:廃液類は現在そのまま水道の流しから排水として流せないものが多い。そのような場合、実験施設ごとに決めてある保存容器に保存し、産業廃棄物として経費をかけて処理することになる。経費は量に比例する場合が多い。廃液を希釈すると量が増え、処理費が高くなる。金額だけでなく、環境に対してもより多くの負荷を与えることになるので使用量を少なくすることが重要です。
 A汚れを簡単に水洗する  解説8:一般的に流しに流せる試薬と、少量でも流すことが危険な試薬との区別を必ず考えましょう。もちろん慣れるまでは教員の説明を良く聞き、必ず指示に従うこと。わからない場合は自分で判断せずに教員の指示を受けるようにしましょう。試薬によっては危険を伴う場合もあるため特に重要です。
 解説9:上にも書いたように、汚れを簡単に流した後、そのまま放置して乾燥させてしまうと汚れは落ちにくくなります。必ず乾く前に次の処理をしましょう。
 B指定の洗剤を用いてスポンジまたはブラシでよく汚れを落とす  解説10:すすいだ後、直ちに洗剤+物理的な力でガラス壁に付着している化学物質を洗浄します。しかし、洗剤を使用することは洗剤で汚すことになることを承知してください。化学物質を落とす最も合理的だから仕方なしに洗剤で汚します。また、スポンジやブラシなどで物理的な力を加えるということは、ガラス壁にわずずつダメージを与えることになります。したがってガラス壁表面に傷がつき、ひいては容量が変化してしまうことになります。特に測容器の場合は注意する必要があります。
 洗浄操作はガラス壁を洗剤で汚すこととダメージを与えるということを認識してください。
 解説11:どの器具をどのように処理するということは、実験施設によって微妙に異なります。不思議に思うかもしれませんが、事実です。理由はいくつかありますが、まずはその実験室の流儀を正確に学び、実施しましょう。将来別の施設に移った時はその施設の流儀に従います。必ず理由がありますが、納得するのは処理方法を覚えた後で良いはずです。
 C水道水で洗剤を良く洗い流す  解説12:洗浄に用いた洗剤は不純物です。薬品類を洗浄するために仕方なしに洗剤を用いましたね。洗剤は汚染物質ですから除去したいですね。どうするか。用いる洗剤は水に溶けます。したがって、水で洗えば良いはずです。そこで、大量の水道水で洗います。ただ、水道水は人が衛生的に飲用できるように管理し、塩素が加えられていますね。さらにカルシウムなど、さまざまな微量の化学物質が含まれていることは知ってますよね。つまり、洗剤ほどではありませんが、汚染されています。でも、日本ではしっかり管理されて一定水準の水質が維持されており、洗剤で汚れたガラス壁から洗剤を洗い流す目的で使用できます。
 ここでは洗剤を落とす目的で大量の水で洗います。
 解説13:ここでもう一つ注意すべきことがあります。きれいなガラスを水道水がついたまま乾燥させると、水が付いていた部分に白い粉が付いていることが時々あります。繰り返しますが水道水は化学的には汚染されています。乾くと水道水の不純物がガラス壁にこびりつき、落ちにくくなりますから、乾く前に必ず次の処理を行います。
 D少量の、実験室で決められている水(通常はイオン交換水や蒸留水など)で多数回(3回以上)すすぐことで水道水を洗い流す

 解説14:洗剤を洗い流す目的で、日本では容易に入手でき、大量に使用可能な水道水を用いて洗浄しました。しかし水道水は汚染されていましたね。そこで、次に汚染されてない水で水道水を洗い流せばよいわけです。ではどんな水を使えばよいでしょうか。水について考えてみましょう。

 解説15:実験室で通常用いられる水について考えてみましょう。
 現在私たちが普通に接している水は水道水だと思いますが、産業的にはさまざまな場面でいろいろなグレードの水が使用されていますね。
 超LSIを作るためには純水(文字通りの純水)が大量に必要で、これは、わずかな不純物も精密なLSIの加工を妨げるのでほぼ純水に近い品質の水を使っています。医療の分野でも、たとえば注射液を製造する場合、人間の身体の中に入れることが前提ですから不純物がふくまれると不安ですね。
 では、超LSIを作るための純水と、注射液を製造するための純水とは同じでよいでしょうか。当然違うはずですね。注射液を製造するための純水には、人体に影響を与える物質が含まれていては困りますよね。それじゃ、もし影響を与えない物質ならどうでしょう?問題はここです。純水を作る時のことを考えてみましょう。影響を与える可能性を持つ物質を除くためにはどんな努力もしなければなりませんね。しかし、影響を与えない物質があるとして、与えない物質を除くために大変な努力を必要とするなら、その努力は無意味です。そのために水の価格が上がってしまうとすればむしろ害になります。つまり、使用する目的によって必要とするグレードは異なります。同様に、実験室で使用する水のグレードは、その実験室の研究目的によって様々です。この点は重要ですから必ず覚えておきましょう。
 実験室で用いられる水は次の処理を行ったものが主に使われています。

イオン交換水:水道水をイオン交換樹脂層に通し、含まれる不純物のうち電荷を持つ成分(イオン化した成分)を除去した水です。脱イオン水とも言います。塩素イオンや無機金属イオンなど、電荷を持つ成分を除くことができます。しかし、電荷を持たない有機物などの不純物は原理的に除くことができません。
 イオン交換樹脂層を通すだけなので、比較的容易に短時間で大量に作れます。実験施設には製造装置を複数台備えているところが多いはずです。作られた水の品質は電気抵抗値を測定することで簡単にチェックできます。
 しかし、イオン交換能が低下するとイオンを除く効果が低下しますので、イオン交換樹脂の再生処理を行う必要があります。初歩の入門実験に用いる水としては十分使用できます。

蒸留水:水道水を蒸発させ、蒸気を冷却管で冷却して集めます。したがって、揮発性成分以外を除くことができます。しかし製造するためには蒸発させるための熱エネルギーと冷却のためのエネルギーを必要とし、製造にかなり時間もかかります。
 市販の水製造装置にはイオン交換樹脂層と蒸留装置とを装備したものがあります。水道水をイオン交換したのち蒸留することで、不揮発性成分のみでなく電荷を持つ不純物も除いた水を作ることができます。
 イオン交換と蒸留の両方を行った水であれば、通常のバイオ・化学の実験には問題なく使用できるでしょう。

RO水:逆浸透膜を通してろ過した水です。不純物の大きさはすべて水分子より大きいことを利用して、理論的に水分子のみを透過する半透膜を通して製造します。海水の淡水化に良く用いられている方式です。原理的に考えれば、ここに挙げた3種類の水の中ではもっとも高い純度の水が得られるはずですが、実際には装置により異なります。
 結局、イオン交換、蒸留、逆浸透膜それぞれ良い点と悪い点とがあり、実用上はこれらの複数を併用して、より信頼性を高めているようです。

 解説16:次に「少量の水で多数回(3回以上)」について考えてみましょう。
 洗剤による洗浄、続いて水道水による洗浄を済ませた100ml容のビーカーを考えましょう。ビーカーの内壁にはまだ0.3ml程度の水道水が残留付着しているとします。この前提で次の2つの方法でイオン交換水を用いて水道水を洗浄してみます。

 ◎第一の方法(大量の水で1回操作)では、このビーカーにイオン交換水を入れて満たします。100ml容ビーカーなので、水を満たすために150ml必要としましょう。この水を流しに捨てます。捨てた後もビーカー内壁には0.3mlの水分が残留付着しています。この残留付着した0.3mlのうち、水道水の含有率を考えてみましょう。
 ビーカー内壁には0.3ml程度の水道水が付着していたので、150mlのイオン交換水を満たした後の水道水の残留率は約0.2%になります。捨てた後、この水が0.3ml残留付着したのですから水道水の残留量は計算上0.3ml×0.002=0.0006ml(0.6μl)ですね。

 ◎第二の方法(少量の水で3回操作)では、イオン交換水が入った出口先端が細い洗浄びんを用い、ビーカー内壁にまんべんなく5ml程度の水を噴射し、中にたまった水をすぐに流しに捨てます。中にたまった水には計算上6%の水道水が残留していました。捨ててもビーカー壁には0,3ml程度の洗浄水が付着しています。付着量0.3mlのうち、もとの水道水の残留率は6%ですから水道水の付着量は0.3ml×0.06=0.018ml(18μl)です。
 続けて、同じく5mlをビーカー内壁に噴射し、捨てる操作を繰り返します。
 2回目の操作では水道水の付着量は0.018ml×0.06=0.00108ml(1.08μl)になります。
 3回目の操作では水道水の付着量は0.00108ml×0.06=0.0000648ml(0.0648μl)になります。

 ◎結論です
 第一の方法では150mlのイオン交換水を用いて水道水の残留量が0.6μlでした
 第二の方法では15mlのイオン交換水を用いて水道水の残留量が0.0648μlとなります。
すなわち、1/10の水の量で約10倍の効果が得られたことになります。
 第一の方法と第二の方法をもう一度見てみましょう。
 水量150mlで1回洗浄 :0.3ml×0.002=0.0006ml(0.6μl)
 水量5mlで1回洗浄 :0.3ml×0.06=0.018ml(18μl)
 水量5mlで2回洗浄 :0.018ml×0.06=0.00108ml(1.08μl)
 水量5mlで3回洗浄 :0.00108ml×0.06=0.0000648ml(0.0648μl)
 まとめるとこのようになりますね。少量の水で2回までは大量の水で1回より残留量が多いのですが、3回洗浄することで、水の使用量が1/10であるにもかかわらず、計算上の残留量が1/10になりましたね。少量で3回とはこのような意味を持ちます。実際の操作では当然この計算のようにはなりませんが、少量3回の意味を覚えておいてください。

 E乾燥棚中でほこりが付かないように乾燥する  解説17:ほこりが付きにくいように、ビニールのカーテンでしめられる乾燥棚がよくもちいられるようです。温風の送風機付きもありますが、測容器を乾燥するときは温度を上げすぎないように注意しなければなりません。
 F本来の格納場所に格納する  解説18:長期間保存しますからほこりをかぶらないように扉付きの棚が用いられます。収納時や取り出す時に他の器具を引っかけて壊したりしないように注意して収納します。
 解説19:初心者は、収納場所がわからない器具が必ずあります。その都度教員に問い合わせましょう。実験室を使用する初歩は、使用する器具を集めることから始めます。収納場所を知ることが第一歩ですから、率先して実験器具にさわり、持ち、片付けることが重要です。

 2−2:計量器のうち、特に厳密な管理を要求する器具  
 @使用した試薬が内面のガラス壁に付着しないよう使用直後に直ちに水洗する(最重要)  解説20:使用した直後にすぐ水を入れて試薬がこびりつくのを防ぎます。測容器は特に中にブラシを使えませんから非常に大切な作業です。普段の生活でも、使用した食器にすぐ水を入れておくと、洗うとき楽に洗えますが、食材の残りが着いたまましばらく放置すると洗うときに苦労しますね。同じです。測容器の内側はブラシやスポンジを使えませんので特に重要です。
  A使用した試薬の種類により、洗剤を用いて内面を良く洗うが、このときスポンジやブラシなどを内面ガラス壁洗浄に用いず、(外側はスポンジを用いて洗う)洗剤と水を少量入れて容器を良く振って汚れを落とす  解説21:スポンジやブラシなどで何回も表面をこすると、ガラス壁が摩耗して容量が変化します。筆者の経験ですが、分析で大量の試験管を毎日繰り返し使用していた時期、試験管の同じ場所にマジックインキでマークを付け、終わると流しでスポンジで消す動作を繰り返していました。マークをつける位置が同じため、しばらく続けるとマークの場所が削れて曇ってきました。
 B水道水で洗剤を良く洗い流す  
 C乾かないうちに蒸留水で水道水を洗い流す  
 Dほこりが付かないように乾燥(加熱不可)する  
 E本来の格納場所に格納する  

 2−3:ピペット類(パスツールピペット以外)  
 @使用直後によく流水で内面の残留物を洗い流す  解説22:使用直後に実施することが大切で、中で乾燥して固まってしまうとそのピペットは再使用できなくなるので注意する。
 A洗浄液入りのピペット洗浄槽内のかごにピペットを漬ける。このとき重要なのは、必ず液の流出側(先端部の口が細い側)を上に向けて漬ける(絶対)ことである。これによりピペット先端部の細い部分が割れるのを防止でき、洗浄器内での洗浄水の交換が可能になる

解説23:ピペット洗浄器の使い方
 ピペット洗浄器は、a)ピペット洗浄槽(以下洗浄槽) b)ピペット洗浄用かご(以下かご) c)ピペット洗浄器(以下洗浄器)の3つからなっています。また、洗浄器に超音波装置が付いた機種もあります。

  a)   b)   c)

 1:洗浄槽a) に専用の洗剤を入れます。
 2:空のかごb) を入れます。
 3:ピペットは必ずかごの中に入れます。かごの外に入れるとかごを出し入れする時かごの角でピペットを折ってしまいます。
 4:洗浄槽の中で放置することでピペット内の洗浄を行います。
 入れるときの重要な注意:ピペットを液の流出側(先端部の口が細い側)を必ず上に向けて入れます。
 理由は2つあります。一つ目は先端部が細い側を下にすると、入れるときのショックで先端部が割れる恐れがあることです。二つ目は、かごを洗浄器に移した後、ピペット先端の細い口を下に向けていると洗浄水がピペットから出切る前に新しい洗浄水が入ってくるため、古い洗浄水が出ないままになってしまい、事実上まったく洗浄されないことになります。これは実際の洗浄器での水の動きを見ればすぐわかります。

 Bピペット洗浄器に移し、流水で洗浄液をよく洗い流す  解説24:上に書いたように、ピペット先端の流出口(細い口側)が下を向いていると洗浄水がピペット内から排出されず、洗浄が不十分になるので、ピペットは先端の流出口を上に向けて入れます。
 C乾かないうちに蒸留水で水道水を洗い流す  
 D乾燥器でほこりが付かないように乾燥(加熱不可)する  
 E本来の格納場所に格納する  
 ※パスツールピペットは先端が極端に細く、ピペット洗浄槽やピペット洗浄器での出し入れや保存中に簡単に折れる。このため、出し入れする時、手を切るなどけがをするため、他のピペット類とは別の適当な洗浄方法をとる必要がある。(例:パスツールピペットの形状に合わせた超音波洗浄器など)  

 2−4:特殊器具の洗浄  
 指定の方法があるので指示に従うか、マニュアル等で各自洗浄方法を調査して洗浄を実施する