T-5 溶液の調製1
(その2

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※ マニュアル本文(黒字)は学生に配布するマニュアル本文の内容です。
※ 解説(青字)は、私が実験指導中に口頭で伝えた内容を文章化しました。主に実験前の説明で解説することを前提にしています。マニュアルには記述してない、非常に重要な内容を含みます。解説がこのホームページの中心と考えています。これから実験を学ぶ学生に特に読んでいただきたいと希望しています
※ まとまったマニュアル本文は、「マニュアル本文」をクリックすると表示されます。

 <目的>
 溶液の調製に習熟する。固形試薬の重量測定、溶解方法
 <器具>
 メスシリンダー、メスフラスコ(100ml)、メスピペット、ビーカー他
 <試薬>
 塩化ナトリウム(試薬特級)    NaCl
 D-グルコース(ブドウ糖)     CHO-(CHOH)-CHOH
 用いる各分子の分子量は下記記載の原子量を参照して計算しなさい。
 H:1.01  C:12.01  O:16.00  Na:22.99  Cl:35.45

 <操作1>
  a:3%(w/w) NaCl溶液を100g調製する。
  b:3%(w/v) NaCl溶液を100ml調製する。
  c:0.5mol/l NaCl溶液を100ml調製する。
  d:5%(w/w) D-Glucose 溶液を100g調製する。
  e:5%(w/v) D-Glucose 溶液を100ml調製する。
  f:0.5mol/l D-Glucose 溶液を100ml調製する。

 解説:<調製する溶液を知ろう1.溶質の種類は?>
 生まれて初めて溶液をきちんと調製する人もいると思います。最初に作ってもらう溶液です。
 aからfまでの溶液、わかりますか?
 落ち着いて6種類の溶液の内容を解析してみてください。
 溶質です。2種類ありますね。まずNaCl、いわゆる食塩ですね。触っても飲んでも無害ですね。そして、D-Glucose(ブドウ糖)ですね。これから先、生化学では非常に重要な意味を持つ物質として勉強するはずですが、これも触っても飲んでも無害ですね。
 今回はまず溶液を調製するという基本を経験してもらうのが目的ですので、余計な神経を使わなくて済むように全く人体に無害な溶質を使います。試薬の調製操作だけに神経を使って練習をしてください。
 解説:<調製する溶液を知ろう2.濃度は?>
 濃度です。3%(w/w)、3%(w/v)、5%(w/w)、5%(w/v)そして0.5mol/lですね。まず、%ですが、w/wとw/vの2種類ありますね。この意味の違いをもう一度上に戻って確認してください。
 w/wは「溶液100g中の溶質の量の百分率 %(w/w),wt%」ですね。つまりできあがり溶液量が重さで規定されていますね。
 w/vは「溶液100ml中に含まれる溶質のグラム数 %(w/v),Wg/100ml」ですね。だからできあがり溶液量が容量で規定されてますね。
 ということで、今回の操作指示では調製量がw/wは100g、w/vは100mlになっていますね。
 次にmol/lですが、「溶液1000ml中に含まれる溶質のモル数 mol/l, M」ですね。つまりできあがりは容量で規定されていますね。だから今回の操作指示では100mlになってますね。
 これらを組み合わせて6種類の溶液を調製します。
 解説:<調製と調整>
 調製と調整は日本語で発音すればいずれも「ちょうせい」ですね。で、何となく意味が近いと思いがちですが、意味が違います。パソコンではときどき変換ミスで私も気づかずに逆になってしまうことがありますが、注意してください。
 この二つの言葉の意味は、英語に翻訳するとまったく別の言葉になり、わかりやすいでしょう。
 調製は、preparation すなわち、準備・調合などの意味に近く、「試薬を調製する」という場合に使います。
 調整は、adjust あるいは controlすなわち、調節の意味とかんがえてください。「測定器のゼロポイントを調整する」という場合に使います。英和辞典でもこの使い方を間違っているのを発見したことがあるくらい間違いやすいですが、正確に覚えておいてください。

 1):まず、溶液調製の前準備として各自準備したノートにマニュアルを作成する。

※なお、今回の操作では、用いる試薬の純度は100%と仮定して計算を行うことにする。

 解説:<実験日の前日までに実験ノートに操作法を記入し、頭の中で実験をしておく>
 必ず実験実施の前日までに実験ノートを作っておきなさい。そうでないと実験をやる意味が半減してしまいます。まず行う実験をできるだけ理解しておく。朝、実験が開始されてから「これから何やるの???」は絶対にダメですよ。最初に準備しておく習慣をつけておきましょう。
 初めはだれでもわかりませんから、マニュアルを読んでもなかなか操作手順がわからないはずです。それでも自分の実験ノートに必ず操作手順を「その時の自分のレベルで」考えて書いておきましょう。ある処理を、どう操作して良いのかわからない、器具として何を使って良いのかわからないですね。それでも自分なりの操作手順を作っておく意味は非常に大きいでしょう。実験が終われば操作はわかるわけですから、実験前に考えていた操作手順のうち、間違えた部分は絶対に忘れないでしょう。今後の実験はすべてあらかじめ「その時の自分のレベルで」操作法を考えておきましょう。
 解説:<純度100%って?市販試薬の純度と値段>

 試薬会社が売っている試薬はすべて100%だと思いますか?
 販売している試薬に一つとして100%のものはありません。いや、現時点で人類には100%のものを作ることはできません。99.99・・・・・%のものは大金を使えばできるかも、です。
 つまり、100%のものはありません。
 比較的良く使ういくつかの試薬(無水物)について、カタログで純度を調べてみました。

 以上と書いてありますが、決して100%とは書いてありません(もちろん例外はあります)。
 HClの35〜37%やKOHの85%は決してミスプリントではありませんよ。現実はこの通りです。
 次に、NaClを例に、純度と価格の関係を見てみましょう。
  99.5%以上(JIS試薬特級)  500g     750円
  99.98%以上(容量分析用)    50g   1,600円
 1瓶あたりの量が違いますが、99.5%→99.98%なると500gあたりに単純に換算した価格は750円から16,000円になります。この程度純度を高くするために、値段がずいぶん違ってきますね。
 「以上」と書いてあっても、100%に近づけることが大変なことがわかりましたか。
 純度を考えに入れた試薬調製は次の機会に行います。予想できるように、少々ややこしくなりますので、今回はこのようなことを知っているだけでいいです。今回は純度を100%として計算をしましょう。