T-5 溶液の調製1
(その3

溶質量の計算

 このページの使い方
※ マニュアル本文(黒字)は学生に配布するマニュアル本文の内容です。
※ 解説(青字)は、私が実験指導中に口頭で伝えた内容を文章化しました。主に実験前の説明で解説することを前提にしています。マニュアルには記述してない、非常に重要な内容を含みます。解説がこのホームページの中心と考えています。これから実験を学ぶ学生に特に読んでいただきたいと希望しています
※ まとまったマニュアル本文は、「マニュアル本文」をクリックすると表示されます。

 ア):実験ノートにa〜f溶液調製に必要な溶質量の計算を行う。必ず自分の実験ノート上に計算の式をすべて記載し、計算結果を記録する。
 解説:<溶液調製に必要な溶質量の計算>

a:3%(w/w) NaCl溶液を100g調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はNaClですね。3%とは、100のうちの3ということですね。つまり基準は100ですね。w/wが付いてますね。ということは、重量/重量で、調製量が100gですね。だから溶質(g)/溶液100gとなり、3%なので

溶質3g/溶液100g

となります。
 現実には、NaClを3gとり、水を加えてNaClを溶かし、さらに水を加えて総量100gの溶液を作ることになりますね。

b:3%(w/v) NaCl溶液を100ml調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はNaClでa:と同じですね。今度は同じ3%でもw/vが付いてます。ということは、重量/容量で、調製量は100mlです。ここがa:の3%(w/w)NaCl溶液の調製とは違いますね。溶質(g)/溶液100mlとなり、3%なので

溶質3g/溶液100ml

となります。
 操作は、NaClを3gとり、水を加えて溶かし、水を加えて100mlの溶液を作るということになります。
 a:との違いは最終的な調製量が重さではなく、容量で決めることになります。従って、最後に一定量(この場合100ml)にするときの器具が、重量を測定する天秤ではなく、容積を測定する器具に替わりますね。この点を注意しながらまた使用する器具を考えてみましょう。

c:0.5mol/l NaCl溶液を100ml調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はNaClでこれまでと同じですね。調製する溶液の濃度が0.5mol/lですから、ここで初めてモル濃度の溶液が出てきましたね。これまでは%濃度だったので基準は100だったのですが、今度の濃度の単位はmol/lつまり/lですから、リットルあたり、つまり1リットル(1000ml)ですね。しかし、調製量は100mlで、1000mlではありませんね。ここは注意してください。
 まずはじめに、0.5mol/lのNaCl水溶液を調製するために必要なNaClの量を計算しましょう。
 ここで、モル濃度が出てきたとき、最初に考えなくてはならないのは何でしたか?思い出してください。
 そう、「モルが出てきたら、すぐにその分子の分子量を調べなさい」でしたね。で、分子量は、「対象となる分子の化学式」がわかれば簡単に算出できます。ということでしたね。(T-4 生化学実験に用いる単位と量(演習)(付) モル、モル濃度参照
 化学式は何度も出てきましたね。NaClですね。で、この分子量は「それぞれの原子量をNa:22.99 Cl:35.45」として計算しなさいという条件が付いてましたから、

 分子量=22.99+35.45=58.44

 で良いわけですね。

 さあ、分子量が出ました。
 次に、1モルについて考えます。思い出してください。「1モルは物質の分子量に等しいグラム数の物質の量」でしたね(T-4 生化学実験に用いる単位と量(演習)(付) モル、モル濃度参照)。
 この場合の物質はNaClですね。分子量は58.44ですね。
 前の文から「1モルはNaClの分子量58.44に等しいグラム数のNaClの量」ですね。
 だからNaCl 1モルは58.44gですね。
 さあ、1モルが出たので、今度は1モル濃度を考えます。
 1モルと1モル濃度の違いはわかってますね。それでは1モル濃度について考えてみましょう。
 1モル濃度(1mol/l)は 58.44g/lですから、1リットル中にNaClが58.44g入っている濃度ということになりますね。つまり、この水溶液が1リットルあれば58.44gのNaClが含まれるから、この水溶液が100mlあればその中に5.844gのNaClが含まれることになりますね。
 それなら、ここで要求されている0.5mol/l の濃度はどう考えたらよいでしょうか。もう簡単ですね。
 1モルが58.44gですから0.5モルはその半分29.22g。だから0.5mol/l は29.22g/lですね。
 この意味をもう一度確認します。1リットル中に29.22gのNaClが入った溶液ですね。
 だから、もし0.5mol/l溶液を1リットル調製するなら、NaClの必要量は29.22gとなりますね。
 でも、調製量は100mlです。だからこの1/10量のNaClが必要になります。つまり、2.922gですね。
 まとめます。0.5mol/l NaCl水溶液を100ml調製するために必要なNaClの量は2.922g。

溶質2.922g/溶液100ml

 操作は、NaClを2.922gとり、水を加えて溶かし、水を加えて100mlの溶液を作ることになります。最後に一定量にするときの器具が容積を測定する測容器のため、b)と同じ操作になります。この点を注意しながらまた使用する器具を考えてみましょう。

d:5%(w/w) D-Glucose 溶液を100g調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はD-Glucoseですね。5%とは、100のうちの5ということですね。つまり基準は100ですね。w/wが付いてますから重量/重量で、調製量が100gですね。だから溶質(g)/溶液100gとなり、5%なので

溶質5g/溶液100g

となります。
 現実には、D-Glucoseを5gとり、水を加えて溶かし、100gの溶液を作ることになりますね。

e:5%(w/v) D-Glucose 溶液を100ml調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はD-Glucoseでd:と同じですね。今度は同じ5%でもw/vが付いてます。ということは、重量/容量で、調製量は100mlです。ここがa:の5%(w/w)D-Glucose溶液の調製とは違いますね。溶質(g)/溶液100mlとなり、5%なので

溶質5g/溶液100ml

となります。
 操作は、D-Glucoseを5gとり、水を加えて溶かし、水を加えて100mlの溶液を作るということになります。
 d:との違いは最終的な調製量を重さではなく、容量で決めることになりますから、使用する器具は上のb:と同様ですね。

f:0.5mol/l D-Glucose 溶液を100ml調製しなさい。

 調製する溶液の溶質はD-Glucoseでd:、e:と同じですね。調製する溶液の濃度が0.5mol/lですから、濃度はc:と同じですね。濃度の単位はmol/lつまり/lですから、リットルあたり、つまり1リットル(1000ml)ですね。しかし、調製量は100mlで、1000mlではありませんね。ここはc:と同様に注意してください。
 次に、0.5mol/lのD-Glucose水溶液を調製するために必要なD-Glucoseの量を計算しましょう。
 モル濃度が出てきたとき、最初に考えなくてはならないことをc:と同じように確認してください。
 「モルが出てきたら、すぐにその分子の分子量を調べなさい」。で、分子量は、「対象となる分子の化学式」がわかれば簡単に算出できます。ということでしたね。
 化学式は<試薬>の項目にありましたね。CHO-(CHOH)-CHOHですね。
 それではこのD-Glucoseの化学式の意味を確認しましょう。参考のためにD-Glucoseの鎖状構造の図を示しました。<試薬>の化学式と比べてください。


 図の鎖状構造ではC(炭素)が6個縦に並んでますね。この一番上のCHOが<試薬>の化学式の左にある部分です。図一番下のCHOHが化学式の一番右にある部分で、図では中間にCHOHが4層重なってますがこれが化学式の括弧内を示しています。
 化学式および図をよく見ると、構成している原子はCとHとOの3種類ですね。図がわかりやすいので、図で見てみましょう。
 炭素(C)を数えると6個あることがわかります。
 酸素(O)も数えると、6個ですね。水素(H)はどうでしょう?11個に見えますね。でも一番下のHの一つには小さく2という数が付いてますから、H2つを表します。ということで、結論はD-Glucose分子はこれらを全部加えた値、C6個、H12個、O6個からなることがわかります。これが構成する原子の数となります。
 それぞれの原子量をH:1.01 C:12.01 O:16.00 として計算する条件がありますから、
分子量  =(12.01×6)+(1.01×12)+(16.00×6)
     =72.06+12.12+96.00
     =180.18
 となり、分子量が180.18と出ました。
 調製する溶液は0.5mol/lを100mlですが、計算違いを防止するために、計算はまず最初に1mol/lを1リットル作るようにしてください。
 まず1mol/lを1リットル作る計算をします。分子量が180.18なので、180.18gを水に溶かして1リットルにすれば良いですね。
 次に、調製するのは1mol/l溶液でなく、0.5mol/l溶液ですから、これを1リットル作るとしたら、180.18g×0.5=90.09gより、90.09gのD-Glucoseが必要になりますね。
 でも調製量は100mlですから、90.09g×0.1=9.009gとなりますね。

溶質9.009g/溶液100ml

 まとめると、180.18×0.5×0.1=9.009g となります。
 9.009gを水に溶かして100mlにすればよいことになりますね。

 解説:<計算は、最初に1mol/l溶液を算出し、次に濃度や調製量を合わせる>

 でもこのまとめの計算式は、よほど慣れてからにしてください。計算違いを防止するために、実験の計算に慣れて経験を積むまでの1年以上は必ず、
 一、まず1mol/lの溶質量を計算しなさい。
 二、次に目的濃度が1モルじゃないから何倍、
 三、そして1リットルじゃないから何倍
と順を追って必ず三回計算しなさい。

 さて、これで溶質をどれだけ溶解させるかという必要な溶質の量が算出されました。