T-5 溶液の調製1 |
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マニュアル本文 |
溶 液 の 調 製1 |
多くの化学反応は溶液状態で行われる。溶液(solution)は溶質(solute)と溶媒(solvent)から成り立つ。その溶液の組成比または溶液中の溶質の量を表わすのが濃度(concentration)である。濃度の表示法にはパーセント濃度(percent concentration)とモル濃度(molar concentration) とがある。 |
解説:<バイオ実験と化学実験の違い> |
バイオ実験はほとんど化学実験と共通です。ただ、試料が生体関連物質であることがほとんどであるというだけの違いです。このため、実質的には化学実験の基礎と変わりありません。技術的には化学実験の一部という位置付けです。しかし、通常の無生物を扱う化学実験と異なる点は、生体物質を試料とするための特別な知識と技術を必要とすることです。 生体物質を扱うための特別な知識と技術とは、たとえばタンパク質を扱うときの温度や微生物や薬品耐性や・・・、という知識と、ではそれをクリアするためにはどのような技術が必要か、ということなどです。 私は、これまで糖・タンパク質の実験を主に行ってきました。さて、この技術だけでは油脂の実験を行う自信がありません。糖、タンパク質の実験は、主に水溶媒、塩溶液を扱います。油脂は原則として水には溶けません。水溶液の実験系の技術は使えないわけですね。でも、生体を構成する主要成分の一つが油脂ですから,バイオ実験は油脂を扱うことも含まれます。同様に微生物を扱う実験がありますが、まったく別の知識と技術が必要です。目に見えない上に生きてますからね。バイオ実験と一言で言っても広くて、多岐にわたり、それぞれの部分で他とは異なる特殊な実験技術を要求します。だからそれぞれの部分で技術を持った専門家が必要になります。 |
解説:<溶液、溶質、溶媒そして濃度> |
バイオ実験では、油脂関連の実験を除き、水溶液系で行われる。まず、溶液、溶質、溶媒という単語と、solution,solute,solventという単語を覚えてください。えっ!英語も?と思う人がいるでしょう。そうです、「この程度」の英語はいつも出てきます。ソリューションです。 溶液=溶媒(溶かしているもの)+溶質(溶けているもの) です. さらに大切なのは、前項でも出てきましたが、濃度という単語です。 濃度(concentration)については、実験入門者のかなりの人たちが、あやふやでよくわからないと感じているようです。これから先、この濃度は常に出てきます。ここでしっかり理解できると良いのですが・・・。 |
濃度 |
解説:<化学系の実験で使う濃度にはいくつかの種類がある> |
濃度は重要です、ここでしっかりと理解しておきましょう。 上には濃度とは「その溶液の組成比または溶液中の溶質の量を表わす」とありますね。 溶液の組成比の表し方には、たとえば%(百分率)や‰(千分率)があります。また、溶液中の質量の量を表す濃度表示方法にはたとえばモル濃度があります。 さらに、これらを質量で表したり容積で表したりします。このうち、バイオ系の実験で良く用いられているものを紹介します。 表現は、単位質量あたり(たとえば「/100g」→%濃度で用いられる)や、単位体積あたり(たとえば「/l→モル濃度(mol/l)で用いられる)が用いられることがおおい。 この回の実験ではいくつかの濃度の溶液を実際に作ってみます。この一連の動作を通して、濃度の感覚を実感してください。 |
パーセント濃度 |
重量パーセント:溶液100g中の溶質の量の百分率 %(w/w), wt% |
重量容量パーセント:溶液100ml中に含まれる溶質のグラム数 %(w/v), Wg/100ml ※重量容量%は重量/容積であり、溶液量と溶質量の測定単位が異なるため厳密には%とは言えない。しかし、含まれる溶質の量を、溶液の容量(ml)を測定することで特定できるという便利な点があり、また、実質的にはほとんど変わらない場合が多いため、よく使用される。 |
解説:<w/wとw/v> |
重量パーセント濃度と重量容量パーセント濃度の区別をするために、w/wおよびw/vが使われる。wはweightの頭文字、vはvolumeの頭文字で、重量/重量および重量/容量を表す。 |
解説:<重量容量パーセント濃度> |
パーセント濃度、パーセントとは百分率で、「百分のいくつ」ですから、基準は当然100gあるいは100mlですね。 パーセント濃度には重量パーセント濃度と重量容量パーセント濃度が一般に用いられています。しかし、上にも書いてあるとおり、重量容量パーセントとは、質量を容積で割ることになるので、%(百分率)とは言えません。ただし実験室では、溶液を扱う器具としてメスシリンダーやメスフラスコなど、容積を測定する器具が便利に使われているため、溶液を天秤を使う重量で扱うよりは容積で扱う方が便利なことが多いのです。このため、厳密さを要求されない試薬溶液などでは事実上重量容量パーセント濃度が使われることが多いことを知っておいてください。 |
モル濃度 |
容量モル濃度:溶液1000ml中に含まれる溶質のモル数 mol/l, M |
重量モル濃度:溶媒1000gに対して溶解している溶質のモル数 mol/1000g ※バイオ実験では使われているのを見たことがありませんが。 |
解説:<バイオ実験の溶液で使われるモル濃度は容量モル濃度> |
バイオ実験の溶液でよく使われるモル濃度は、容量モル濃度です。前回(T-4 単位と量)の「付」 で説明したように、バイオ実験ではモル濃度というとmol/lです。今後はモル濃度というと、容量モル濃度と考えてください。 |
解説:<モル濃度の実例その2> |
モル濃度の実例を前回(T-4 単位と量)の「付」
で説明しましたが、まだ心配です。実際の計算に入る前にもう一度、前回とは少し角度を変えて説明します。 たとえば、NaClの1モル濃度の溶液(水溶液とします)が100mlあります。すると、この溶液は、水とNaCl分子からなっていることを示していますね。で、その組成がどうなっているのかです。 でもその前に、溶液ということは、溶けた溶質が溶液全体に均等に分散されているということが前提になっています。 あなたはコーヒーを飲みますか?さて、コーヒーがコップに入っています。まだ砂糖は入ってません。好みの量の砂糖を入れます。ここからです。スプーンをコーヒーの中に入れてかき回しませんか。もしかき回さないと・・砂糖は重いので、カップの下の方に溜まっており、飲み始めるカップの上のコーヒーは甘さが無く、飲み終わる頃の下に砂糖が多くあって甘すぎるということになりますね。これは溶かした砂糖がカップ内に均一に分散してないからですね。 これを馬鹿にしてはいけません。これから行う溶液の調製では、かき回すことを忘れて、とんでもない溶液を作る人がよくいますからね。かき回して溶液内の溶質を均質にすることを撹拌すると言います。覚えておいてください。 さあ、100mlの1モル濃度NaCl溶液の話に戻ります。 この溶液のイメージがあなたの頭の中にできましたか?できない人は自分なりにビーカーの中に溶液のイメージを作ってください。NaClは水にたくさん溶け、その上色はありませんから、できあがった溶液は無色透明です。もちろん撹拌済みが前提です。 濃度について、初心者が間違いやすいことがいくつかあります。 その第一、ちょっと次の例題を考えてみましょう。 例題1 この1モル濃度の水溶液1リットル中に含まれるNaCl分子の数はいくつでしょう。 例題2 この1モル濃度の水溶液が100mlあれば、100ml中にはNaCl分子の数はいくつでしょう。 例題3 この1モル濃度の水溶液が50mlあれば、50ml中にはNaCl分子の数はいくつでしょう。 ※確認ですが、1モルに含まれる分子数は6×1023個でしたね。 ※もう一つ確認です。1モルはダースと同じで数を表わしますね。でもこのモルに濃度が付くと・・?。 モル濃度を表す単位はmol/lでしたね。モルを表す部分がmolで、濃度であることを表示する部分は /l(リットル) ですよね。で、/lの意味は、1が隠れていて、「1リットルあたり」ですね。 これらをもう一度思い出してください。そうして上の例題1〜3を考えてください。 間違えるのは、「モル」と「モル濃度」の違いがはっきり理解できてないためだと思いますから、ここでまた再確認しておきましょう。 例題1の答えは、1モル濃度の単位はmol/lですから、1リットル中にNaCl分子が6×1023個あるわけで、これが1リットルあるということは、そのままですね。答えは6×1023個ですね。 例題2の答えは、まず1モル濃度(mol/l)水溶液ですから、1リットル中にNaCl分子が6×1023個含まれている溶液であることは変わりありませんよ。いいですか、ここが大切です。この水溶液が100mlあるということです。1リットル中にNaCl分子が6×1023個含まれている溶液で、これが100mlあるということは、前提として1リットル中にNaCl分子は均一に分散しているので、1/10である100mlとれば、この100mlの中には1リットル中に含まれていたNaCl分子の1/10のはずであることはわかりますね。 決して、100mlの溶液の中に1モルのNaCl分子が含まれているわけではありませんよ。 でもモルとモル濃度が頭の中でしっかり整理されてない人は、訳がわからないか、あるいは6×1023個と答える人が多いです。そう思っちゃった人はもう一度、上の「確認ですが」以下を理解し直してください。 例題3の答えは、上を理解していればわかりますね。1リットル当たり6×1023個ですが、液量が50mlですから、1リットルの1/20ですね。だから答えは6×1023/20(3×1022)個ですね。 |
解説:<1リットルの1モル水溶液は、1モルの溶質に水を加えて総量1リットルにする> |
その第二、もう一つ初心者がよく間違えることがあります。これも重要ですからここで確認しておきましょう。 上の例題1を例にしましょう。1モル濃度の水溶液が1リットルあります。 この意味は、 ※溶媒(水の量は指定していない)+溶質(NaClで、量は1モル)→1リットルの水溶液(正しい) です。これは、1モルのNaClに、「水を加えて溶解して」総量を1リットルにするということです。 水+NaCl=1リットルの容積になるということですね。 よく間違えるのは、 ※溶媒(水1リットル)+溶質(NaClで、量は1モル)→1リットルのNaCl溶液(間違い) と考えてしまうことです。 水1リットルに1モルのNaClを加えたらどうなるでしょう。1モルのNaClは58.44gでしたね。すでに1リットルある水に、58.44gも塩を加えたらどうなるでしょう。絶対に1リットルを超えますね。正確に水溶液の量がいくつになるか筆者は知りませんが、たとえば、1,05リットルになったと仮定しましょう。できあがった液を濃度で表すと、 1mol/1.05l(リットル) となりますね。1.05リットル中に1モルのNaCl溶液が含まれる溶液です。 これをモル濃度、すなわち「 /l (1リットル当たり)」で表すと、 0.95238・・mol/lとなり、1mol/lとはなりませんね。 もう一度、1モル濃度NaCl水溶液とは、1リットルの溶液に1モルのNaClが含まれており、1リットルの水に1モルのNaClを加えたものではありません。 |
解説:<溶液と懸濁液は通常別の扱いをします> |
今は溶液について考えていますが、溶液とは別に懸濁液があります。これも覚えておいてください。 ◎懸濁液って? 日本人なら、誰でも知っている味噌汁を考えてみましょう。ただ、ここでは味噌汁とは言っても、話を簡単にするために具が何も入ってない味噌とお湯(水)だけの液を考えてください。 頭の中に味噌汁が作れましたか? お鍋の中で味噌汁を作ったとします。味噌はお湯に完全に溶けますか?完全に溶けると液が透明になって、何も浮いてたり沈んでたりしていない状態と思ってください。色は付いていてもかまいません。 味噌汁は、完全には溶けずに味噌の溶けない成分が浮いていて、しばらく放置すると溶けない成分が下に沈みますね。でも撹拌すると下に沈んだ成分がまた浮いてきて分散しますね。このように成分が完全に溶けずに分散している液が懸濁液です。 さあ、この溶液を一部取ります。残りの部分と同じ成分組成として取れますか。一生懸命撹拌しながら一部取っても、残りと同じ成分組成で取ることは無理ですよね。分散している未溶解な成分は、どうしても偏ってしまいますね。このように溶液と懸濁液は違います。たとえ時間や熱をかければ溶解する成分でも、部分的にでも未溶解な状態では懸濁液です。しっかり溶かして、さらに撹拌して初めて溶液の中で均一になると覚えておいてください。 |